家族になるまで | ナノ

07.夫婦の時間

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 私の子を返して。
 勝手なことを言うな。気分が悪くなってきた。
「わかった。じゃあ,暁からの連絡待ちでいいな?」
「うん」
 思ったより普通にうんざりしている声にほっとした。
「ふたりにお礼,言っといて」
「ああ」
 通話は切れた。
「暁がありがとうって」
「どういたしましてって伝えて」
「もう切れた。お前,夕飯は?」
「朝陽ちゃんと一緒に頂いたよ」
「帰るか? 送る。泊まっても」
 しまった,またやってしまった。
 あいつの泣きそうな視線に口を噤む。
 あいつははっとしたように目を伏せた。
「ごめん,疲れたしひとりで帰るよ」
「わかった」
 玄関先で別れて鍵を閉める。
 寝室に行くと,布団で眠るふたりの姿があった。
 すみれを跨ぎ,ベッドに寝転がる。上からふたりを眺めた。
 朝陽の腹に手を置いたまま肘を突いてすみれは眠る。
 と思ったら,目が合った。
「あれ? おかえりなさい」
「……ただいま」
 寝起きでぼんやりしているのか,真司へ向ける笑みは柔らかい。
 少しだけ,罪悪感が戻ってきた。
「夕飯,食べた? あれ? 恭ちゃんは?」
「帰った。夕飯は,食べてない」
「そっかー。あ,朝陽ちゃん起きちゃうかも。向こうでもいい?」
 頷き,居間のソファに座る。
 すみれが隣に座る。顔が見えない位置だ。
 のはずなのに。
「真司さん,ごめんなさい」
 すみれは真司の顔を覗き込み,真っ直ぐに射抜く。
「……何が」
「いろいろ」
「俺にも謝れって?」
「そうは言ってないでしょう」
 恥ずかしくて顔を伏せた。


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