06.5週目
余所行きの笑顔を貼りつけた名賀はなんとなく嘘くさい。
「でも,わざわざ」
「いやあ,実は今からデートなんですよ」
そのやりとりを真司は黙って眺めていた。
暁を見送り,なんとなくすみれと視線が合い,自宅へ戻る。
すみれは口を開かない。
「ごめんなさい」
「昨日,帰ったことを怒ってるの」
「違う」
すみれは大きく伸びをした。
「私ね,真司さんと結婚してから,どうにも思ったように生きていけないの。もちろんお互い様だと思ってる。真司さんだって同居人ができて,生活は変わったんだよね。だけど,なんか,寂しいし虚しいの。私なりに理由を考えているけど」
すみれは真司を詰っているわけではない。
それがわかるからこそ,つらい。
「すみれさん。この状態で子どもができてさあ,何か変わるのかな」
「わからない。だけど,今の状態で子どもは,無理だよ……」
すべてを話してしまいたい。
緒方真司はすみれの従兄である樋山恭介を愛しているのだと言ってしまえば,すべて楽になれる。
「家族ってさ,何をしたら家族になれるんだろうね」
すみれの目が虚ろで,真司はうんざりした。
「ねえ,やってみようよ」
「無理にしたって,家族にはなれない」
胸を蹴られた。
「そんなの,わからないじゃない」
抵抗する気も失せてしまった。
寝室に彼女を連れていき,転がした。
もし,これがあいつだったなら。
そう思ったら,頭に血が上った。
「すみれさん。俺も,虚しい」
泣きじゃくるすみれに吐き捨てる。
殴られた頬に痛みはない。
服を着た胸を蹴られた。息が止まる。
「最低」
言った彼女の方がショックだったようで,またぼろぼろと涙を零す。
「だから言っただろう,無理にしたって家族にはなれない」
一緒の空間にいるのも嫌で,結局真司はすみれを置いて家を出た。
あいつに会いたい。
あいつと生きていきたい。