05.4週目
あの家から逃げ出したい。
あいつとの思い出が詰まった家は,真司には重い。
「うん……」
すみれは生返事をし,歩き始めた。
早足で,真司を振り返る素振りはない。
とぼとぼとついていく。どう振る舞えばいいかわからない。我ながら情けなかった。
帰りのバス停に辿りつき,やっとすみれが振り返る。
「あのね,真司さん。今日,帰ってもいい?」
真司は頷いた。
*****
家に帰るなり,すみれは寝室に籠っている。
真司はリビングのソファで天井を見上げていた。
これはただのままごと。
大がかりなままごと。
もしこの日常が壊れたら,真司という存在はなくなってしまうかもしれない。
なんとなくそう思う。
その日,すみれは寝室から出てこないままだった。