家族になるまで | ナノ

05.4週目

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 いつか一緒に,幸せになろう。

*****

 物件を見に行く朝,彼女が思い詰めたような顔をしている。
 理由を訊ねたほうがいいかわからない。
 お互い無言のまま朝食を取り終えてもすみれは何も言わない。
「あのね,今いい?」
「別に,いいけど……」
 真司が途方に暮れたのを察したのかどうか,すみれが真司をじっと見据える。
「あのね,生理,終わった」
「あ,そう」
 我ながら間抜けだが,それが何を意味するかがわからなかった。
「あ,そうって,あのね,生理が終わっちゃったの」
「それはどういう」
「来週,予定通りにできるってことなの」
「あの,すみれさん,無理強いする気は」
「嫌。約束は守るから」
「いやその,律義でなくていい場面もあると思う」
「私が嫌なの」
「じゃあ,すみれさん」
 真司はすみれの両手を握る。
「今日はとりあえず予定通り,家を見に行こう」
 すみれが目を見開き,ゆっくりと頷いた。

*****

 住宅展示場に着く頃にはすみれの表情も明るくなっていた。
「ふたりだと広すぎるねー……。いや別に,いつかはね,いつかは!」
「そうだね,いつかは」
言った後に,慌てて付け足すすみれに苦笑しつつ,真司もゆったりと周囲を眺める。
子連ればかりで,夫婦だけの真司たちは浮いている。
「やっぱり,子どもがいないと不自然なのかな」
 ぽつりとすみれが言う。
「まあ,空間は余るだろうね。だからとりあえずは今のところに住もう」
 さして気にしていないということを伝えたくても,すみれは再び浮かない顔をしていた。
「あとさ,すみれさん。俺,子どもはともかく,引っ越したいんだ」
「……うん」
「ふたりの生活を始めたい。でもすみれさんが今のままでも十分って思ってくれるなら」
 嘘だ。自分の発言で気分が悪くなってきた。


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