家族になるまで | ナノ

05.4週目

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 買って帰れば,彼女がなぜか笑いを噛み殺している。
 まずかったか。
「私の機嫌を取ろうとしてるの?」
「自意識過剰」
 彼女がふわりと笑った。
 そのまま夕飯を一緒にとって,今日の話をして。
 夕食後,ちょっと間を空けてふたりで食べたチョコレートは思ったよりも甘い。
「すみれさん,食べられそう?」
「うん,これなら食べられそう」
 会話もなく,気づまりなわけでもなく,のんびりと過ごし,彼女が風呂に入ると言ってリビングを出ていく。
 彼女が風呂に入ってる間にビールでも飲もうかと冷蔵庫を開ければ,さっき食べたはずのチョコレートがあった。
 こういうときは,どうするのが正解なのか。
 気づかないふり?
 気づいて,嬉しいと素直に伝える?
 とりあえずビールは冷蔵庫に戻した。
 風呂から上がった彼女は首を傾げる。
「どうしたの真司さん,気持ち悪いよ」
「なんとでも言ってください」
 こういう些細なところに,絆されていくのだろうか。
 風呂を上がり,横になって眠りに落ちようかというとき,彼女が真司の手を握った。
「あのね,こうやって触れることならできる」
「別に無理して触れなくても」
「いいの」
 その我儘にあいつの面影を感じてしまう。
 真司はすみれから目を逸らした。
「あのね,真司さん」
 すみれの囁きに,胃の底が縮む。
「今日ね,ありがとう」
「……何が」
「私ね,とても嬉しかったの」
 その声は顔を見なくてもわかるくらい弾んでいる。
 動悸が激しくなるのを感じて真司は頭が真っ白になる。
 すみれは気づいた様子はない。
 手を振りほどいて慌てて布団を被った。
「真司さん?」
 返事なんてできない。
 涙が零れそうで,歯を食いしばった。
 今,傍にいないことがたまらなく悲しい。


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