05.4週目
「正直,痛いし眠いんだよね」
「わかった。いや,わからないけど。おやすみ」
「ふふ。おやすみ」
彼女が真司の手を上から包んだ。
あいつと似た,柔らかいけど筋肉の力強さも感じる手。
彼女は,あいつの代わりなんかじゃない。
あいつは,彼女とは違う。
*****
そういえば,すみれさんについて何も知らない。
という今更なことを改めて感じる。
「すみれさんって何が好きなの」
「あまり甘くないもの」
「お菓子?」
「も,そうだけど。ドラマとか小説とかも,あまり甘くないものがいいな」
「だから恋愛の経験がないんだ」
彼女がそっぽを向く。
「でもそれなら,俺とあんまり合わないかも」
「何,べったべたな甘いのが好きなの?」
引いたような声に,真司は慌てて付け加える。
「いや,普通。ほんとに普通。べったべたなのは,ちょっと」
「うわーショック,確かに合わないかも」
にやにやしながらすみれが言うが,真司は驚いている。
黙っていると,すみれが怪訝そうに覗き込んでくる。
「何? 合わなさそうなのが,真司さんもショックなの?」
「いや……」
すみれが,ショックと思ってくれていることが嬉しいのだと伝えようとしてやめた。
「すみれさんが,俺と合わないことをショックだと思ってるんだなって驚いただけ」
代わりに口を突いた言葉は中途半端なものだった。
「なにそれ。私が真司さんのことを好きだと思ってるって自惚れてるの?」
「いやそこまでは……」
「きゃー,自意識過剰。もう嫌,寝る」
照れたような声音に,真司は胸が弾むのを感じた。
******
あまり甘くないもの。
でも,真司も食べられるもの。
苦いチョコレート,なんてどうだろう。