家族になるまで | ナノ

04.3週目

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「草場と別れまでしたのに」
「それは関係ない。本当に一緒にいたかったなら,今でも一緒にいるはず。朝陽は関係ない」
 即答だった。
 だったらなんでと言いたくて,でも黙った。
「紹介してくれよ」
「まあ,ちゃんと決まったらね」
「お前,幸せなのか」
「正直言って,きみよりは」
「……正直すぎるな」
「すみれさんにもそんな顔,見せてるの」
 黙って頷けば,呆れたような溜め息が返ってきた。
「きみ,愛想尽かされないようにね」
「もう尽かされてるかも」
「ああ,それがいい。彼女,本当にきみには勿体ないよ」
「俺もそう思う。なあ,暁」
「ん?」
「もう,いいんだな。朝陽ちゃんのことは」
「うん」
 別れ際の朝陽の表情を忘れたくて,きつく目を瞑った。
 何かを取り逃しそうで怖い。
「なら,俺は何も言わない。今度こそ」
「わかってるって。帰る?」
「ああ」
 この家にひとり,暁を残して帰るのは気が引けた。
 でも,真司は今,すみれに会ってみたかった。
 なんとなく,彼女に向き合える気がした。
 たとえ不安から逃れるための手段であるとしても。

*****

 そして彼女は苛立ちを隠しもせずに真司を睨む。
「帰る前に電話ちょうだいって言ったよね」
「はい」
 浮かない気持ちでぼーっとしたまま帰宅すれば,彼女は風呂にも入らず待っていた。
 驚いた表情はすぐさま怒りへと変わり,そしてきつく言われた。
「忘れてました,ごめんなさい」
 素直に言っても彼女はそっぽを向き,収まる様子もない。
 こういうときってどうすればいいんだったか思い出せない。
 怒った誰かを宥めるだなんて久しくしていない。


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