家族になるまで | ナノ

04.3週目

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 苛立ちと諦めを隠しもせず暁は言う。
 少し落ち着きを取り戻した頭で真司は考える。
 ひとりで真司の帰りを待つ彼女は,今何を思っているのだろう。
 義務めいたすみれの言動。
 そして己のあいつしか考えられない思考。
「恋ってどう思う」
 唐突な問いに暁は驚きもしない。
「少なくともきみに恋したことはないよ」
「俺は、あると思う」
「そう」
「恋ってどう思う」
「わからない」
 あっさりとした答えに、真司は首をかしげる。
 その気配を感じたのか、暁が小さく笑った。
「俺、恋したことないもん」
「あいつが聞いたら泣くな」
「とりあえず、プラスばかりではないと思うよ」
「ありがとう、暁。それで十分だ」
 苦しい。
 朝陽のことを思い,身を切るような真似をしている幼馴染を見ることが。
 彼女を好ましく思うのに愛せない自分が。
 それにも関わらず、愛してほしいと願う自分が。
 愛せないくせに、表情を失う彼女が気になる自分が、苦しい。
 愛せるのならば、彼女を愛したい。
 真司の幸せを願うあいつのためにも。
「お前,その,結婚を考えている人のこと好きなのか」
「わからないし,たぶん違う」
 正直に暁は言う。
「でもねえ,結婚ってなんとかなると思うんだよね。特にきみのところを見てたら」
「相手の気持ちは」
「きみがそれ言うー?だいたいきみは樋山に惚れたまま,未練たらしくすみれさんと結婚してさ」
 返す言葉もない。
「朝陽がわかってくれなくてもいいんだ。でも,俺のところにいるより幸せだと思う」
「傲慢だ」
 あの朝陽を見ていないからそんなことが言えるのだ。
「朝陽ちゃんはお前が父親だと信じているのに」
「そんなの時間が解決する」
「じゃあ,暁。寂しくないのか」
「寂しいよ。でも直に慣れる」


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