04.3週目
怒鳴ると,暁が固まった。
数度口を開きかけ,
「あのさ,緒方」
「ん」
「泣いても,いい?」
真司が暁を抱きしめると,体を震わせ泣いた。
「俺が死んだら」
途切れ途切れに暁は言う。
「朝陽はひとりになる」
「死ぬ予定があるのか」
「ない。だけど,わからない。俺の両親だって,死ぬ気はなかったと思う」
そうだった,と真司は当時を振り返る。
飲酒運転の事故に巻き込まれ,暁と真朝の成人式の帰りに亡くなった幼馴染の両親。
恋人に溺れ姉を顧みなかった暁と,寂しさを紛らわすように男に縋りついた真朝と,そして生まれた朝陽と,朝陽を育てるために恋人と別れた暁と。
その沈黙をどう思ったのか,暁が再び体を震わせる。
「俺,朝陽を残して死ねない」
「どうしてまたそんな弱気に」
「真朝が,朝陽を引き取るって」
「今に始まったことじゃないだろう」
「子どもができないんだ」
一瞬,何を言われたかわからなかった。
戸惑う真司を見て,暁は歪んだ笑みを浮かべた。
「だからね,真朝のとこ,子どもできないの」
「でも朝陽ちゃんは」
「そう。だから,必死。引き取ったら引き取ったでさ,あの男の子どもかどうか揉めるに決まってるのに。ま,調べればわかることだけど」
「西原さんはどう言ってるんだ」
「さあ。ただ,まだ何も知らないみたい。でも,もう,俺のとこには帰ってこない。戸籍上養子になったとしても,引き取るって」
「そんなことはどうでもいい」
この幼馴染もここ数年で随分と成長した。
「お前はこれでいいのか」
「最善だと思ってる」
「お前にとって」
「最善だよ。結婚を考えている人も,本当にいる」
「いつの間に」
暁が指を真司の唇に押しあてた。
「きみはもう決断した。俺もね。だけどね,きみが壊れるくらいなら建前はどうだっていいよ」