家族になるまで | ナノ

04.3週目

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 真朝を無視してしゃがみこみ,朝陽と視線を合わせる。
 朝陽が咄嗟に真朝を見上げ,そして真司に視線を戻すと唇を震わせた。
「名賀」
「今は西原っていうのよ」
「名賀」
 きつい声で呼べば,真朝は怒りを隠そうともせずに朝陽を抱き上げた。
「おじさま」
 朝陽の悲鳴のような囁きが突き刺さるのに,真司は立ちつくしたまま見送った。
 我に返ったのはもう二人の姿が見えなくなってからだ。
 緊張で滑る手を動かし携帯電話ですみれを呼ぶ。
「すみれさん,ごめん,今日,遅くなります」
「え,昨日,固いし臭いって言ったの根に持ってる?」
「違います」
 というか,それなら電話すらしない。
「冗談よ」
 電話の向こうの声が笑う。
「じゃあ,まあ――帰る前に電話ちょうだい」
「わかった。切る」
「じゃあ後で」
 そして向かうは幼馴染の職場。

*****

 しかし職場はもぬけの殻だった。
「暁」
 職場の窓を睨みながら電話すると,「どうしたの」とのんびりした声だ。
「どこにいる」
「家だけど……。どうしたの」
「今から行く」
「それはいいけど…。すみれさんには伝えたの?」
「電話した」
「なら,いいけど。今どこ」
「お前の職場」
「ふうん。じゃ,待ってるね」
 電車を待つ時間も焦れる。脳裏に浮かぶのは暁が眠っている朝陽の頬を突いている姿だ。
 そわそわと落ち着かず,電車を降りた後は小走りで,気が急いて仕方がない。
 インターホンを叩き,暁が出てきて,驚いたように肩を竦めた。
「きみひどい顔してるよ」
 そんな呑気なことを言うものだから,さすがに頭にきた。
「朝陽ちゃんは」


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