03.2週目
ただ,傷ついた。
妻帯者である自分があいつを思っている時点で,アウトだ。
そんな,当たり前のことに。
途端に昨夜の自分が馬鹿らしくなった。
「すみれさん,何が食べたい?」
彼女は少し目を伏せ,そして光を振りまくように笑った。
「真司さんが得意なもの,食べてみたい」
柄にもなく見惚れた。
「真司さん?」
慌てて首を縦に何度も振り,彼女から逃げた。
そして真司は車を走らせる。
あいつを迎えに行くために。
*****
真司が得意なものを食べたいという伝言に,「カップ麺になっちゃうよ!」と嘆いたのはすみれ命のあいつだ。
愛しい愛しいすみれにそんなものを食べさせるわけにはいかないと,恭介は買い物客が避けて通るほど険しい視線で食材を吟味する。
「オムレツ…。いや,すみれちゃんならがっつり肉か…って食欲落ちてるんだっけ」
ぶつぶつ呟きながら,それでもなんだか楽しそうだ。
結局何にしたのかもわからないまま購入した食材を両腕に抱え,真司の車に乗り込む。
隣に座る恭介の横顔は,すみれとは違う。
道中,無言でやりすごそうと思ったが,結局耐えられなかったのは真司の方で。
「お前,恋愛したことあるか」
「きみ以外はないよ」
「俺もだ」
「……冗談でも,きみは言わないで。俺,そういうの嫌い」
あいつの嫌悪感,怯え。
負の感情が綯い交ぜになったものが,真司との間に壁を作る。
「俺は,恭介が好きなんだ。今でも」
「帰る。降ろして」
「帰さない。すみれさんがどうなってもいいのか」
これは脅迫だ。
あいつは言葉が見つからないようだった。
家に入るなり,あいつがすみれに抱きつく。
真司から守るように,きつく抱きしめる。
「恭ちゃん,どうしたの」
「すみれちゃんはもう人妻なんだなーって思ったら寂しくて」
「恭ちゃーん!」