03.2週目
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朝起きたとき、彼女は既にまっすぐに天井を見つめていた。
「おはよう、すみれさん」
「おはよう、真司さん」
声の硬さに胸が痛む。
壁を明確にするタイミングも間違えた。
「ねえ、夕食に恭ちゃん呼んでもいい?」
「恭介がいいって言うなら」
この状態であいつに会うことは正直避けたかったが、すみれの機嫌を直すことの方が優先だ。
となると、夕食にはあいつも好きなものを入れようと考えて,気づいた。
「すみれさん,俺たちに料理させてくれないか」
彼女は目を見開いた。
「恭ちゃんがいいって言うなら」
「わかった」
その日の朝食は,少しだけ味がした。
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食器を片付け終えた後に電話をすると,3コール以内に出た。
彼女はソファでくつろいでいる。
「珍しいね」
「そうか? それより。今日,うちで夕飯作らないか」
「食べにこないか,じゃなくて?」
我ながら妙な誘いに,あいつも驚いたようだった。
「いや,すみれさんが食欲を落としてて」
「まさかきみ,すみれちゃんが食欲を落とすような仕打ちをしてるんじゃないよね」
「面目ない」
話しているうちに,自然と笑みが零れた。
あいつにもそれが伝わったらしい。
「わかった。要するに,すみれちゃんの好きなものを作ればいいんだよね」
「そう。もちろん俺も作る」
「じゃあねえ,16時にいつものスーパー。行ける?」
「ああ」
「すみれちゃんにも何が食べたいか聞いておいて」
穏やかな声は,すみれのおかげ。
わかっている。
嫉妬なんかしない。
動揺して気づかなかった,なんてこともない。