家族になるまで | ナノ

03.2週目

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「したね。相手が嫌いだったり」
「ああ」
「気分が乗らなかったり」
「それもわかる」
「口臭とか髭とか」
「気をつけたんだが」
「……」
「女性の意見が聞きたいんだ」
「俺は男だよ」
「知ってる」
「……真朝のことは」
「そんなのどうでもいい。そういえば朝陽ちゃん」
 切れた。

****

 もう、猶予がない。
 時間が解決するに違いない、焦らずにのんびりいこうと思っていた真司は、朝、すみれの隈を見て考えを改める。
 しかしすみれは生返事で、真司は頭を抱えた。
「俺、経験がない」
「知りたくなかったよ」
「悪かった」
「そこは素直なんだな」
「でも、俺は恭介が好きだったと思う」
「きみいい加減に」
「あのときのこと思い出すと、やっぱり幸せなんだ」
「あのね、緒方。言葉にしたって自分は騙せないよ」
 受話器越しに呼吸が伝わる。
 いきなり電話を切るくせに、毎晩律儀に真司の話を聞いてくれる幼馴染。
 暁の成長と引き換え、自分ときたらむしろ退化している。
「今から、お前の嫌がることを訊く」
「たくさんあるよ」
 愉しそうに笑う声に、真司は一度目を瞑る。
「お前、どうやって忘れた」
 受話器の向こうで、溜め息が聞こえた。
「自然と。忙しかったんだよ、俺。いくらきみたちが助けてくれても。思い出す暇がなかった」
「なるほど」
「きみ、考える時間ができたんだよ」
 周りのために自分を捨てた男は笑う。


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