家族になるまで | ナノ

03.2週目

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「やめて。ていうか緒方、もともと上手いじゃん」
「まあな」
「俺も上手くなったよ」
「やめろ。……そういえば朝陽ちゃん、まだなのか」
「何が?」
「ファーストキス。誰々くんとねー、みたいな」
「それはもう俺が奪った」
「うわ」
「きみと話すと不愉快。切るよ」
「まっ」
 切れた。
 寝室に戻り、何かを探すようにさ迷う彼女の手を握ると振り払われた。
 真司は深く息を吐く。
 手を握って横になることは要領を得たもの、どうにも眠れない。
 例によって眠りに落ちたすみれの手を振り払われた後、なんとなく落ち着かなくて暁に電話したが、朝の疑問の解決の糸口にもならない。
 解決によって、真司は安心したいのだ。
 確かに真司は、すみれと焦ってキスをする気はない。
 すみれがそういう気分にならないことも問題はない。
 別にキスくらいなくてもいいと思う反面、どうせなら、きちんと愛を形にしていきたいと真司は考えている。
 つまり、キスを拒まれているのか愛を拒まれているのかを知りたかった。
 自分が心を他人に奪われていることを知っている分、余計に。

*****

 翌朝、すみれがあまり笑わなくなった。
 帰宅後話しかけても上の空で、そろそろ疲れが出てきたころかと思う。
 その半面、真司は恐れている。
 愛を育むことで誤魔化そうとしている傲慢さが見透かされているかもしれない。
 手を握って彼女が眠り、そして振り払われて、真司は再び暁に電話をする。
「暁お前、どうやって俺とキスしたか覚えてるか」
「きみも懲りないね」
「俺は思いだせない」
「きみ、デリカシーないね」
「今更だ」
「今更だね、わかってる。まず、顔を近づけてね、唇を合わせるんだ」
「方法は訊いてない」
「知ってるよ」
「状況だ」


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