03.2週目
記憶を辿りつつ伝えた答えはすみれのお気に召したらしく、彼女は満面の笑みを浮かべた。
それを見た真司は少し後ろめたさを感じてしまう。
もしあいつだったら、俺は欲を持ったに違いないから。
というよりも。
「すみれさん、俺ががっついたほうがいいのか」
「そう訊かれると困る」
「じゃあ言葉を変える。すみれさんの意思を無視して組み敷いた方がいいのか?」
「うーん……。とりあえずわかった」
すみれが表情を引き締めて真司を見据える。
その気迫に呑まれた真司も姿勢を正した。
「直接的な表現の方がいやらしくない!」
「まあ、そう、だな」
「こういうのって、勢いだよ。だから、まあ、うーん、たとえばね……」
彼女が布団から体を起こし、真司の両脇に腕を突いた。
鼻先と鼻先が触れ合う距離で、彼女は囁く。
「今、キスする気にはなれない」
「ああ」
「女だって、がっつくんだよ。でも、なんか、違うの」
「そういうもんか」
「うん。だからね、真司さん誘うの、頑張るね」
ぎこちない笑顔が離れていく。
真司は頬杖を突き、すみれの横顔をまじまじと見ながら考える。
もしかして、すみれの「経験がない」の意味は。
しかしまだその時期ではないと、言葉を胸の内に仕舞った。
*****
その意味についてあいつに相談するわけにもいかないので、暁に電話をする。
「すみれさんにキスを拒まれてる」
「あ、そう。キスしたいの?」
「いや別に」
「あ、そう。結婚式は?」
「唇の端」
「あ、そう……」
「キスの仕方、忘れそう」
「うわ、やめて。……練習する?」
「お前と?」
「そう」
「考えておく」