家族になるまで | ナノ

03.2週目

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 2週目の目標は、手を繋いで眠る。
「眠りにくいね。寝返りどうしよう」
 真司が握り返すと、すみれは落ち着かないのかもぞもぞと動き続ける。
「やめる?」
「いや、試しにやってみる」
 彼女が目を閉じても、真司は眠れなかった。
 天井を見つめると余計なことばかり思い浮かぶ。
 すみれの体温はあいつより高い気がするとか、すみれの目線の高さはあいつに近いとか。
 彼女の寝息が聞こえる。
「すみれさん」
 呼びかけに返事はない。
 彼女が時折動くが意外と手は離れなかった。
 隣で眠るのとは感覚が違う。
 握り返すだけで、こんなにも近い。
 あいつの手も、まともに握り返したことなんてあっただろうか。
 口づけようと真司が体を起こした瞬間、寝返りを打たれた。
 手が、離れる。
「すみれさん?」
 返事はない。
 たぬき寝入りでもない。
 隣で眠る、隣で腰掛ける、彼女から抱きついてくる。
 誘っているらしい表情をすることもある。
 ――そういえばキスしたことがない。
 しかし真司はまあいっか、と気にしないことにした。
 ゲロを吐いたことは自身の記憶に新しい。
 焦らずに生きるのだ。
 翌朝、彼女はすっきりとしたお目覚めのようで。
「意外と寝やすいもんだね」
「まあ、そうですね」
 眠りに落ちた直後、真司の手を振り払ったことなど当然、彼女の記憶にはないらしい。
「真司さんは寝づらい?」
「別に」
「寝やすい?」
「あまり意識しなかった」
 正直に答えると彼女が項垂れたので、真司は思わず怯んだ。
「それ、私に魅力がないってこと?」
「何の話」
「だって普通、男の人ってがっつくでしょう」
「俺が普通じゃないのかもな」
「ああ、なるほど。そういう考え方もできるね!」


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