家族になるまで | ナノ

02.1週目

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 その様子に、真司は目が離せなくなった。
 なんとなく。
 本当になんとなく、彼女に口づけようとして、両手で口を押さえられた。
「ゲロ吐いたんだから、口をゆすいでね」
 にっこりと。
 背後に黒いものさえ見えそうな彼女の笑みに、真司は頷く。
 洗面所から戻ってきたときには既に気分は失せていて、彼女もその気はないようで。
 寝室へ移動した彼女の眠る隣に体を横たえた。
 翌朝、真司が起きたときに彼女はまだ眠っていた。
 真司は彼女を起こさないように洗面台へ行き、口をゆすぎ、顔を洗って髭も剃った。
 寝室へ戻り、そして彼女へこっそり口づけようとして――。
「不意打ち、やめてよね」
 またしても両手で拒まれた。
「口、ゆすいだ」
「そう」
「顔も洗った……」
「うん」
「ひ、髭も剃った」
 彼女がにっこりと笑う。
「朝から身だしなみを整えるって、素敵なことだよ。おはよう、真司さん」
「おはよう、すみれさん」
「体調どう?」
「大丈夫」
「よかった!」
 彼女が飛び起き、首に腕が回る。
 寝起きの体でその重さを抱えられる真司ではなく、彼女の肩に頭突きした。
「あ、ごめんごめん!」
 悪びれることなくすみれは笑う。
 痛みに目が滲んだまま真司は自分の体を起こすついでにすみれの上半身を引き上げる。
「ありがとう」
「どういたしまして」
 もしかしたら、おままごとに近い感覚なのかもしれない。
 自分だって、当てつけに近い形ですみれと結婚した。
 子どもなのはお互い様だ。
 焦らなくていいと決めたのは自分で、暁の発言に焦っているのも自分で、真司は己の節操のなさを深く反省する。

*****

 仕事帰りに例のアレを返却し、帰宅する。


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