家族になるまで | ナノ

02.1週目

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 暁たちの訪問から数日後、仕事帰りに借りたソレ。
 さすがにすみれを誘う気にはなれず、こっそりノートパソコンで見て、吐いた。
 心配してくれるすみれを宥め、自室に籠もり、暁へ苦情の電話を入れる。
 どうせもう朝陽は寝て、自分の時間を過ごしている。
「吐いた」
「ああ、見たんだ?」
 主語がないのに理解する暁は流石とは思うが。
 にやにやと笑う顔が目に浮かぶようで、単なる愚痴が諦めに変わった。
「お前な……」
「よかったじゃん。男が好きなんじゃなくて、俺と樋山が好きってことが証明されて」
「ちっともよくない」
「きみもつまらない人だな!」
 深く突き刺さるが、あいつを失った今、本気で叱ってくれるのは暁しかいない。
「いい? 腹を括りなよ。まったくもってきみらしくないよ」
「……ああ」
「俺だって、腹を括ったのに」
 自嘲気味の声に真司は黙り込む。
 慰めも叱責も暁には掛けられない。
「緒方。俺は怒ってるんだからね」
「ああ」
「どうせきみのことだから、未練があるのは俺だけだからなんとかなるって思ってるんでしょう」
「……まあ」
「現実見ろ馬鹿」
 最早返事する気力が失せて、真司は目を閉じる。
「もうその段階は終わり! きみは、すみれさんを巻き込んだんだ。きみの我儘に。責任を取れ、彼女の人生に」
「暁」
「なに!」
「お前、朝陽ちゃんを育ててから、変わったな」
 受話器の向こうで、息を呑む気配がした。
「まあね。朝陽は俺の子だ」
「知ってる」
「じゃあ、切るよ」
「え、待って」
「待たない」
 無情に切れた電話に、真司は溜め息を吐く。
 リビングへ戻ると、すみれはソファで眠っていた。
「すみれさん。風邪を引く」
 揺り動かすと、彼女がうっすらと目を開けた。


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