01.初夜
「別に、謝ることじゃない」
「んー。でもさ、やっぱり、やりたいでしょう」
「ここで別に、と答えたらどうなる」
「不健全だなあって思う」
目を合わせて、ふたりで小さく笑う。
「でも、本当に反応してないね」
真司の股間をじっと見つめてすみれは言う。
「そうですね」
「否定しないんだね」
「事実ですから」
「どうしよう。泌尿器科行く?」
「……やめてください」
にやにやと意地の悪い笑みを浮かべて受診を勧める彼女へ反撃しつつ、すみれのメモに手を伸ばす。
彼女は素直に真司へそれを渡した。
真司は目を通した。そして、無言で彼女へ返した。
「真司さんって潔癖だね」
「別に。普通に抜くよ」
「あ、そこは健全なんだ。私もひとりでするよ」
「そこは宣言しなくていい」
そしてどちらからともなく笑う。
幸せだ。
あいつと共にいた日々よりもずっと幸せだ。
何も知らない彼女と一緒にいて気兼ねなく笑える自分を真司は軽蔑する。
しかし彼女と出会ってから真司が心穏やかに日々を過ごせるようになったのは事実だ。
はあっとわざとらしく溜息を吐き、真司は再び彼女のメモを借りる。
あまり直視したくない単語の数々から現状と対策を練りあげ、あいつとの記憶を辿りながら書き記していく。
「お手数掛けて申し訳ないんだけど、こういうプロセスはどうだろう」
1週目は、隣で眠るだけ。
2週目は、手を繋いで眠る。
3週目は、真司がすみれを抱きしめて眠る。
4週目は、真司がすみれの体に触れる。
5週目は、真司がすみれに性的に触れる。
6週目は、頑張る。
「字、綺麗だね」
じっとメモを見つめていた彼女はぽつりと言った。
「真司さん。気を遣わせてごめんね」
「別に。そもそも出会ってから結婚まで、急ぎすぎた。だから、すみれさんさえ嫌でなければ」