家族になるまで | ナノ

01.初夜

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 緒方真司は最愛の人の従妹と結納を交わした。
「あのね、真司さんは経験ある?」
 結納後、正座で向かい合い彼女は真顔で訊いた。
 何を、と訊くのは野暮だ。
 それくらい、機微に疎い緒方真司でもわかる。
 だがしかしどう答えたものか。
「あ、いや、昔を詮索するわけじゃないの」
 真司の逡巡を見て取った笹原すみれが慌てて両手を振る。
「私ね、経験ないの。やり方も知らなくて。だから、その、真司さんが経験あった方がいいなと思って」
 なんだ、そういうことか。対女性という意味なら、
「僕もありません」
 そして二人は沈黙した。
「じゃあ、ふたりでなんとか頑張りましょう」
 なんでもないことのように笑いながら言う彼女に、真司はただ頷いた。

***

 結婚式と披露宴を終え、ふたりは再びベッドの上に正座で向かい合っていた。
 風呂に入るまではお互い手探りで緊張しつつも順調に進んだのだが。
「ごめん。ちゃんと、ちゃんとできると思ったんだけど」
 顔を俯けたすみれの声も体も震えている。
 ふとあいつを思った。
 同性を受け入れる恐怖に震える真司にあいつはとても情けない顔をして、それでも真司のために我慢した。
「いいよ、すみれさん」
 彼女の横にごろりと寝転がる。
 今の彼女はあのときの自分だ。
 あいつと違うのは、真司が彼女に対して欲を抱いてないことだ。
 すみれは驚いたように真司へ手を伸ばす。
 そんな彼女に真司は心からの笑顔を向け、自身の横を叩いた。
「今日はこのまま寝よう」
 少しずつ。少しずつお互いを知ればいい。
 あいつだって、真司をずっと待っていたのだから。
 すみれが安堵したように頷き、真司の隣に体を横たえる。
 くすぐったい体温の心地よさに真司が目を閉じると、すみれが手を握ってきた。
 握り返すことも振り払うこともなく真司は眠りに落ちる。
 翌朝、真司の目が覚めたとき、すみれはまだ眠っていた。
 よだれを垂らしてぐっすり眠っているその姿はあいつそっくりであるものの確実に違っていて、胃の底がずるりと痛んだ。


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