In front of you.
秀が、動いた。
あっという間に3曲が終わり、客席に一礼し、秀が去っていく。
志岐は呆然としていた。隣の紅葉も、魂の抜けたような顔をしていた。
アナウンスが、紅葉を探す。
「紅葉、行かなきゃ」
「あ、う、うん……」
観客席からステージに飛び乗り、ピアノを撫でる。
いきなり始まった曲は動揺を隠していたが、志岐の心臓はまだ興奮していた。
相手は、誰だ。
涙が出そうになり、志岐は深呼吸をする。
紅葉に聞かせないはずだ。
クリスマスに、追ってこないはずだ。
クリコンと曲が違うから、なんて、理由にならない。
短期間で、こんなに変わるものか。
秀は、恋をしている。