In front of you.
「佐田くん」
「なあにー?」
慇懃無礼に秀が佐田を呼ぶ声が、ふざけた調子で返事する佐田の声が、遠い。
「志岐を保健室につれていってくれないか」
「えー。いや、いいけどさー。平岡くんが連れていったほうが喜ぶんじゃない?」
「喜ぶってのは絶対にないな。よくわからんが、今、へそを曲げてる」
「へえ。わかった。志岐、立てる?」
「うん。だけどね、佐田、大丈夫だから」
なんとか、息に言葉を載せる。
「こいつに、風邪をうつしてくる」
秀が、片眉をあげる。
佐田が、眉間に皺を寄せる。
今の志岐には、すべてがどうでもよかった。
すたすたと歩き始めた志岐の背後で、やる気のなさそうな足音がついてきた。
秀の手だけは、借りない。
朦朧とした意識の中、階段を下りていく。