In front of you.
佐田のポジティブさが羨ましい。
換気のために開け放された窓から、ピアノによるクリスマス・メドレーが流れ込んでくる。
紅葉の音だった。
どうやら、音楽室の窓も開いているらしい。
機嫌を直せということか。
でも、こんなことで絆されたりなどしない。
解決の糸口なんていらない。
このままふたりとも絶交だ。
「志岐?」
佐田が覗き込んできていた。至近距離にある瞳に驚き、悲鳴をあげずにそっぽを向く。
「志岐は、誤解してるみたいだけど」
「恋愛系の話、お断り」
「じゃあ、これで最後にするからさ」
妙に神妙な佐田に、志岐は視線だけを彼に返す。
「俺、童貞捨てるために彼女作ったわけじゃないよ」