In front of you.
本当は、秀と一緒にいたくないだけだ。
秀のことが嫌いになったと、紅葉に伝えたのに、あんまりだ。
無言で弁当を口に詰め、お茶で流し込む。
これで午後の空腹は避けられた。
ふたりへの抗議の意を込めて、挨拶もなく、志岐は第一音楽室を後にした。
胃が痛まなかったことに、気づかないまま。
「秀ちゃん。きみ、本当になにか予定があったんじゃないの」
志岐のいなくなった第一音楽室で、鍵盤で遊びながら紅葉が問う。
「一日くらいなら、なんとかなる」
「俺が志岐ちゃんといるから、毒牙の件なら大丈夫だよ?」
「わかってる」
「寂しかった?」
からかうような問いかけ。
返事は、なかった。