In front of you.
ピアノによる木星が廊下に零れ、志岐は扉を閉めるのを忘れた。
喉が震えそうなほど、抱き締めたくなる音だ。
駆け寄ってきた紅葉が扉を閉め、取っ手を上げる。これでもう、外に音は漏れない。
なのに、倍音が聞こえそうなほど純粋な調べを、秀は唐突に切った。
「25日は空けておけ」
志岐が断るとは微塵にも思っていないようだ。
既に弁当を広げている紅葉の隣に座り、志岐も床の上に弁当を置く。
お腹が空くと、どうにも苛々していけない。
「紅葉のご飯は何?」
「野菜炒めと卵焼き」
「おい、無視するな」
せっかくほのぼのとした気分になっていたのに、秀が邪魔をする。
そんなに構ってほしいのか。