In front of you.
*****
昼休みの弁当は、冷戦か否かに関わらず佐田を含む外部生の友人たちと食べている志岐であるが、今日は違った。
弁当を左手に持ち、階段を昇りながら志岐は溜め息を吐く。
『来い』
3限と4限の間の10分休みに、擦れ違いざまに囁かれた言葉は位置を示しておらず、日本語として崩壊していた。
親しき仲にも礼儀ありだろうと心の中で悪態を吐いた。
当然、無視するつもりだったが、その後ろで紅葉の唇が「ごめん」と動いたから、志岐は目的地に向かっている。
第一音楽室の扉は防音仕様になっており、重たい。
取っ手を下ろし、手前に引く。