In front of you.
最近の自分が、らしくないことなんて、とっくに気がついていた。
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「志岐ちゃん、お待たせ」
1時間のリハーサルと20分の本番を楽しんできた紅葉が駆け寄ってくる。
「いや、待っていたわけじゃない」
動けなかっただけだ。
リハは余裕を持って楽しめたが、本番では、周りが見えなくなるほど、夢中になった。
その感覚を、志岐はどう表現すればよいのかわからない。
「そうなの? でも、一緒に帰ろうよ」
黙りこんだ志岐を覗き込み、紅葉がねだる。
半年もしないうちに中学3年生になるというのに、紅葉は幼い子どものようだ。
「別に、いいけど」
「やった。ありがとう」