In front of you.
この胃を焼くのは、誇らしいような、悔しいような、なんて優しい感情ではない。
苛立ちどころか殺意が湧いてきて、志岐は再び舞台に背を向ける。
きっと、自分は疲れている。
秀に苛々させられ、この寒空の中、演奏を聴かされて。
紅葉には悪いが、帰ろう。
のろのろと足を動かしたそのとき、絶妙に音を絞ったアメージング・グレースが流れてきた。
2曲目と同じ音量になったそれは、マイクを通しても割れず、反響板のない公園でも充分に広がる。
志岐の愛する音だ。
でも、今日はそんなものに絆されたりなどしない。
公園の外の通行人までもが足を止めている姿を見た志岐は深い溜め息を吐き、そして、引き返した。