In front of you.
「おい」
今、一番聞きたくない声に呼び止められる。
聞こえない聞こえない。
無視。
ところが、ぐいと肩を掴まれ、強制的に回れ右をさせられる。
それでも視界に入れたくなくて、逸らした視線の先には、舞台を降りて懐炉を揉んでいる紅葉がいた。
志岐と目が合い、にこりと微笑む彼に志岐を助ける気はないようだ。志岐が秀を避けていることくらいわかっているはずなのに、この幼馴染は容赦がない。
「どれがいい」
そして、目の前の幼馴染も容赦がなかった。
傍から見れば失礼な態度を取っているように見える志岐に、秀は更にぞんざいに訊いた。
久しぶりに話すくせに、何も変わらない秀に志岐は失望した。
「あめのみつかい」