In front of you.
紅葉の指が動く。
公園を彩るアヴェ・ヴェルム・コルプスが、通行人の足を止めた。
そこへ被せるように秀の指が鍵盤を撫でると、通行人は夢から覚めたように首を動かし音源を探す。
毎度のことながら、面白い光景だ。
敢えて余韻を残さずに、ふたりが曲を終えた。
――ただいま、リハーサルを行っております。本番は14時からとなっております。観客のみなさまはご通行中の方のご迷惑にならないよう、舞台手前にお寄りください。ご協力をよろしくお願いいたします――
司会者のアナウンスが終わると、秀が何事か紅葉に話しかけ、紅葉が頷いていた。
あめのみつかい、シューベルトのアヴェ・マリアを聞き終え、いったん休憩しようと志岐が舞台に背を向け、公園の出口まで来たときだった。