In front of you.
「大丈夫?」
振り返ると、今日のピアニストである幼馴染のひとり、笹原紅葉(ササハラモミジ)が優雅に微笑んでいた。
「全然。寒い」
「そうだね。ごめん」
久しぶりの会話だというのに、何の感慨もない。
志岐がコンサートを見に来ることは知らせていなかったのに、紅葉は志岐の来場を見越していたらしい。
気まずく、言葉が見つからないまま志岐が黙っていると、少し戸惑ったように紅葉が笑う。
「紅葉が寒くしているわけじゃない。謝られても困る」
寒さを感じていないように振舞う紅葉は、その容姿も相俟って、ますます人間からかけ離れていくように見える。
「あげる」