In front of you.
自他共に認める素直な性格だったから、常識という常識をことごとく吸収して育った。
それらは本人の自覚を置き去りにして人格形成に影響を及ぼし、果てには記憶の奥底で自由を奪ったのだと今ならわかる。
これは、奪われていたことにすら気づかなかった、古沢志岐(フルサワシキ)にとって有史以前のお話。
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12月にしては、暖かい日が続いていた。
だから、油断していた。
こんなに寒いなんて、聞いてない。
会場に向かいながら、人間の都合で過剰に装飾を施された哀れな街路樹を眺め、志岐は溜め息を吐く。
もうすぐクリスマス。
世の中は企業の購買促進運動に踊らされ、浮かれきっている。