旅の終わり | ナノ

いつか来る別れも

しおり一覧

 彼が背中に体重を預けてくる。
「お前は俺を迎えに来てくれたな」
「うん」
「ありがとう」
「どういたしまして。俺ね、あの日、きみへの想い、最後にしようと思ってたの」
 真司は何も言わない。
 恭介は気恥ずかしさに目を閉じ、大きく伸びをした。
「嬉しかった。あの日、また、きみに恋をした」
 恭介は自分の喉の奥が熱くなってくるのを感じていた。
 そうだ、あの日も泣いてしまった。
「今は愛してる。今も愛してる。ずっと。ずっと。たぶん、ずっと」
 投げ出したままの手が彼の覚悟を示すように固く包まれた。
「俺は一緒にいる」
「うん」
 手を解き、向かい合って抱き締め合った。

*****

「お父さん――と、恭介。どっか行くの?」
 その日は朝早くから葵の父がいなくて、葵たち3姉弟は恭介の家へ遊びに行った。
 その道中、見慣れた背中を見つけたので声を掛ける。
 ふたりは視線を交わし、照れたように笑って同時に言う。
「すみれさん(ちゃん)の、墓参りに」
「あ、そう」
「一緒に来ますか?」
 恭介の誘いに、首を横に振る。姉と弟も同じような反応をした。
「じゃあ、ふたりとも、いってらっしゃい」
「ええ。行ってまいります」
 にこりと微笑む恭介と寂しそうな父に手を振り、先を促し、その背を見送った。
 ざあっと風が巻き上がる。
「こっちも,行こうか」
 ふたりの肩を抱き,葵は歩き出した。

終わり


*前次#

back
MainTop

しおりを挟む
[53/54]


- ナノ -