幸せの代償
「……これからも、よろしくお願いします」
幸せにする。
今まで、出会った人、俺を作ってくれた人すべてに誓うよ。
*****
緒方怜司は喫茶店にいた。
怜司は久々に弟と会う。
どうしても弟には言っておきたくて。
「俺、和輝と暮らすから」
「あ、そう」
予想以上に怜司の弟は興味なさそうだった。
弟をかわいがって育ててきた自負のある怜司としては少々面白くない。
「それだけ?」
「なに、引っ越しの手伝い? なら、薫と一緒に行くよ」
そして弟は手をぽんと叩いた。
「この前、葵たちが世話になったんだっけ。ありがとう」
「シン、冷たい」
「今更べたべたすることなんて……」
「お前の大事な兄が、男と暮らすんだよ?」
「女と暮らすよりは安心できるから」
「結婚しちゃったら寂しい?」
「騙されてるんじゃないかって心配しないといけない」
大真面目に返答する弟の頭を撫でる。
弟は困ったように怜司を見た。
「和輝と、結婚、するの?」
「俺、ホモじゃないから」
「そう」
「でも、キスしたよ」
「そう」
弟の眼光が緩む。
少し悪戯っぽい笑みは、怜司にそっくりだ。
「……どうぞ、お幸せに」
ほらね。