幸せの代償
ねえ、あなたでしょう?
父の親友。
そう言って笑った元恋人の娘は草場悠太の記憶を引きずりだした。
この笑顔は、知ってる。
復讐してもいいのだと、過去の自分が囁く。
実際にはまた、溺れてしまったのだけど。
自身に巣食う病魔を知り、彼女の中に刻んだ命の証を告げられたとき、これは罪なのだと思い知った。
「産んでいいって言うとでも思った?」
嘘。
産んでほしい。
一緒に生きていきたい。
「いくらいるの。待ってて、下ろしてくるから」
朝陽の絶望に歪んだ顔を見たくなくて、悠太は体を引きずり、家を出た。
戻ると、朝陽は家にいなかった。
――暁、ごめん。
お前が大切に育てた花を手折った。
俺は幸せだったんだ。
朝陽も、幸せに、したかった。
*****
葵をつれて暁は悠太の部屋――病室へ向かう。
「おじさま、なんで僕だけ」
「いいからついてきなさい」
怯えた表情を見せる幼馴染の息子に暁はそっけなく返す。
病院は葵にとって記憶はなくとも母の最期を告げられた場所であり、育ての親の延命を願った場所だ。
かわいそうだが、仕方がない。
暁がノックし、入室する。悠太は驚いたように目を見開き、優雅に笑った。
「緒方の子だね? 驚いた。きみが小さい頃は、見たことがあるよ。――草場悠太です。きみにとっては、初めまして、かな」
「緒方葵です」
伏し目がちに挨拶をすると、暁が葵の肩を叩いた。