愛の形
「ミズキ――」
その声に一瞬、瑞樹の動きが止まった。
自分が呼びかけられたように感じたのだ。
しかしすぐに、その音が甥へ向けられたものと知る。
ミズキと瑞樹の目が合った。
ミズキが、瑞樹へ手を伸ばす。
「どうしたの、ミズキくん」
恭介がミズキへ微笑む。
――なにかが、おかしかった。
*****
笹原紅葉は妹、すみれの墓参りを終えた後、実家を訪れたが、誰も応えることがなかった。
中に人の気配はする。
おそらく、父と母だろうとも思う。
死んだという話は聞いていないからだ。
しかし、居留守を使われてまで会いたいとも思えなかった。
「紅葉」
ふらりと出た繁華街で、紅葉は行方不明だったはずの幼馴染に腕を掴まれた。
*****
ずっと昔、秋一は誓った。
他の誰も、瑞樹の代わりにはしないと。
代替品で気を紛らわせているうちに、人として大切なものを失った親友を見ていたからだ。
結果として、秋一は幸せを掴んだと自負している。
瑞樹も、秋一と同じように思っているはずだ。
なのに。
「瑞樹は、僕と一緒にいるよな?」
最近、このように問うと、瑞樹は曖昧な顔をして笑うようになった。
どうして。
昔は、にっこり笑って、秋一を抱きしめたのに。
(僕はなにか、気に障ることをしただろうか)