愛の形
でも、それでいいのです。
わたしは、子どもの父親である存在も、子どもも、愛する人もすべて、この手で掴んだのです。
彼女の独り言を、名賀暁は、鼻で嗤った。
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愛を貫こうと思ったわけでない。
岸本瑞樹が言えるのはそれだけだ。そこまで信念があって秋一と共に過ごしたわけではない。
しかし、世間では理由が要るらしい。
幸い、瑞樹と秋一は同じ名字だった。
「親戚」
関係を問われるたび、真顔でそう答えていた秋一を、瑞樹は懐かしく思い出す。
知り合いよりは、ましだ。
愛の言葉は、山ほど、分かち合ってきた。
岸本瑞樹が弟、柚葉と、瑞樹の恋人、秋一が仲睦まじく生活しているのを見て気がついたことがある。
秋一は、柚葉を瑞樹だと思っている。
ばか、全然違うでしょう。
顔のつくり、表情、仕種、なによりも、愛情の量が……、はあ、自分で言ってて虚しい。
「でも、秋一。俺と柚葉を間違えることは、愛情じゃないよ」
誰も応える者のいない世界で自身を奮い立たせるために、瑞樹は敢えて口にする。
愛する人の死を受け入れないことが、ましてや代替を使うことは、少なくとも瑞樹にとって愛情ではない。
笑って、送り出してほしい。
だから、瑞樹は、自ら、消える道を選ぶ。
「秋一、愛してるよ」
柚葉にべったりとくっついている秋一には、決して届かない言葉を、瑞樹は呟く。
俺は、赦されないことなんて、していない。
だから、いつ赦されるかなんて、訊かない。
決意を固め、瑞樹は窓から空を見る。
久しぶりに幼馴染の様子でも見に行こう。
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