愛の形
自問のような、事実の確認のような、曖昧な胸中の嘆きは、誰にも悟らせたくない。
常葉。
その名を最後に呼んだのはいつだったか。
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笹原紅葉はため息を吐く。
もう、癖になってしまった仕種だ。
かつては、幼馴染のものだったのに、いつの間にか、移ってしまったしまった、それ。
笹原紅葉にはかつて、妹がいた。
従弟の親友の妻となってからは、いや、その前から、会っていなかった。
義理の弟である人物と会ったのなんて、ほんの数回だ。
結納と、結婚式と、薫が生まれたときと、すみれの葬式……。
知っている。
彼らが悪いだけではないということを、笹原紅葉は知っている。
紅葉の母校、夏扇学園は男子校である。
あの中では、すべてが狂う。
夏扇の常識は世間の非常識である。
笹原紅葉も、その幼馴染である平岡秀も古沢志岐も、それを知っていた。
それでもなお、溺れていいと、飛び込んだ幼馴染ふたりを、紅葉は見ないふりをした。
あのとき、紅葉は志岐に訊いたのだ。
秀に恋したのかと。
志岐は、優しく笑った。
「恋をしたかどうかなんてわかるのは、すべてが終わった後じゃない?」
志岐にしては穏やかな言葉であったから、紅葉は長い年月が過ぎた後も記憶している。
秀を一度失った志岐は、よりいっそう、秀に依存していた、と、思う。
今、古沢志岐の行方は知れず、平岡秀にはふたりの子がいる。
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子どもが欲しいと思いました。
愛する人を繋ぎとめるために。
愛する人の血を引く子が。
誰も信じないでしょう。