愛の形
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木瀬和輝は自身をとても冷静な人間であると認識している。
しかし、親友であり、秘かに想いを寄せている悪友のこととなるとまったくいつもの調子が出ない。
緒方怜司と出会ってからというもの、和輝は和輝でなくなった。
人の上に立ち、暴力を振るい、首謀者が自分とわからないように誰かを貶めた。
表向きは、誠実そうに見えたと思う。
一見、粗暴な怜司を諌める役だって買ってでた。
だから周囲は、緒方怜司を止められる唯一の人という認識を持っていたはずだ。
和輝もまた、その役どころに満足していた。
怜司の弟が入学してくるまでは。
怜司の弟、真司を一目見たとき、和輝は悟った。
俺は一生、怜司の中で真司よりも多くを占める存在にはなれないと。
実際、その通りだった。
真司は怜司の期待を裏切る行為を多く行ってきたにも関わらず、怜司に愛想を尽かされることがなかった。
兄弟だから、なんて優しい理由ではないことは、和輝がわかっている。
和輝の兄も弟も、生まれたときから敵だった。
なんで怜司を愛したのか。
怜司なら、愛を与えてくれそうだと思った?
違う。
……違う。
愛せそうだと思った?
それも何か違う。
怜司を見るたびに、生きていたいと思う。
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平岡秀は母校で幼馴染と久々に再会していた。
「久しぶりだな、紅葉」
にこやかに秀が声を掛けても、幼馴染である笹原紅葉は硬い表情を崩さない。
――これでは昔と真逆だ。
職員室に他の教職員の姿はない。紅葉と秀のふたりきりである。