愛の形
そして真司は、今日も重たい体を引きずって目覚める。
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西原真朝は旧姓、名賀真朝という名であり、名賀暁の双子の姉であり、名賀朝陽の母親である。
その事実を知るのは、名賀真朝と名賀暁、そして二人の幼馴染である緒方真司だけである。
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ふわふわと霞がかった意識の彼方に、恭介を呼ぶ声がする。
「久しぶりね、恭ちゃん」
恭介が手を伸ばせば届く距離に、すみれがいた。
恭介は、自分が今どこにいるかなんて、どうでもよくなった。
「すみれ、ちゃん」
名前を呼ぶだけで、胸が一杯になり、恭介は慌てて深呼吸をする。
すみれは相変わらず優しい笑みを浮かべて、恭介へ話しかけてくれる。
「恭ちゃん、会いたかった」
「俺も。すみれちゃん」
元気? と訊こうとして、恭介は思いとどまる。
なぜだか、すみれにそれを訊ねてはいけない気がしたのだ。
すみれを抱きしめようと恭介が手を伸ばすと、すみれは困ったように笑いながら、一歩、下がった。
「……すみれちゃん?」
「ごめんね、恭ちゃん」
「すみれちゃん……」
馬鹿みたいに、彼女の名前を呼ぶことしかできない。
「恭ちゃん」
すみれが、きりりと表情を引き締めた。恭介の大好きな、すみれの顔だ。
「恭ちゃん。葵を守ってくれてありがとう。茜と薫を守ってくれてありがとう」
自分以外の名が、思い出せない。しかしすみれの眼差しに、恭介は心の奥が熱くなるのを感じた。
「でもね。恭ちゃんも、自由になってほしいの」
だから、恭ちゃんの記憶を、もらっていくね。