旅の終わり | ナノ

愛の形

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「子どもは、両親いたほうがいい」
 名賀暁が草場悠太へ苦々しく吐いた言葉が、緒方葵が名賀朝陽に掛けた言葉とまったく同じであることを、後に名賀朝陽は知る。

*****

 名賀朝陽の事情を聞いた緒方葵が最初に発した言葉の意味を、朝陽は図りかねていた。
「朝陽。産みたい?」
 なぜ、そんな当たり前のことを訊くのかとさえ、思った。
 朝陽は迷うことなく頷いた。
「じゃあ、結婚するの?」
 今度は横に。
 葵は、どこかふわふわした思考のまま、幼馴染を見つめた。
「相手は誰」
「言いたくない」
「俺に言えないような相手なら、産まないで」
 語気の荒さに、朝陽だけでなく葵まで思わずきつく目を瞑った。
「俺が、こんなこと言える立場じゃないのはわかってる。でも俺だって、朝陽のことが大事だ」
 なんで葵に相談したのかと、朝陽は後悔し始めていた。
「子どもは、両親いたほうがいい」
 自嘲気味な葵の言葉を、朝陽はどう止めればいいかがわからない。
「ねえ、ちょうどいいじゃん、朝陽。俺と一緒になろうよ」
 なんて短絡的な思考。
 なんて甘ちゃんの結論。
 どこまでも地獄しか見えない選択。
「――葵くんには、小さい頃、お母さんがいたじゃん。茜ちゃんや薫くんっていう、兄弟もいて、おばさまが亡くなった後は、樋山のおじさまだっていた。わたしとは違う」
「うん。でも、寂しいのは本当だもん。恭介には悪いけど」
「……わたしには、父しかいなかったんだよ」
「うん」
「葵くんたちが羨ましかったことも、何度もあるんだよ」
 葵のばつの悪そうな顔に、朝陽の気が滅入っていく。
「父に話すよ。本当のこと。だから、葵くん。そこまで、一緒にいて」
「……それだけで、いいの」


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