旅の終わり | ナノ

愛の形

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 名賀朝陽の父親、名賀暁と幼馴染である緒方真司は、朝陽が母親そっくりであることを密かに喜んでいた。
 子どもを見るたびに胸を焼く深い恨みを背負う者が自分だけではないと確信したからだ。

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 名賀暁の元恋人、草場悠太は、名賀暁の娘、朝陽を誘拐したことがある。
 朝陽本人は憶えていないだろうが。
 ずっと昔の話だ。
「そんなに俺が憎いか」
 悠太の部屋で、あのときと同じ言葉を暁が吐く。
 当たり前なことを、暁は悠太に訊く。
 だから悠太は、あのときと同じ答えを返す。
「何度も言わせないでほしい。俺は、暁じゃなくて、朝陽が憎いんだって」
「娘を呼び捨てにするな」
「娘? 姪だろう、おじさん?」
 悠太にとっては意外なことに、暁は挑発に乗らなかった。
「――責任、取るんだろうな」
「堕ろすお金なら、もう渡したけど」
 怒りを殺し損ねた暁に、悠太は大人しく、殴られた。
 痛みは感じない。
「葵と茜まで巻き込みやがって……ッ!」
 悲鳴のように暁が吐き捨てると、悠太はふんわりと笑った。
「ああ、緒方のところの子。あの子たち、確かに緒方と樋山にそっくりだよねえ。朝陽も母親にそっくり。そういえば、真朝さん、元気?」
 朝陽の母親は、名賀暁の双子の姉、真朝である。
 神経を逆撫でするのが楽しくてたまらない悠太は、暁の最初の一言を聞き取れなかった。
「聞こえなかった。もう一回、言って」
「死なせない、と言ったんだ」
「……知ってたんだ? でも、無理だよ」
「無理でも、なんでも」
 暁は大きく、息を吐く。もう、疲れた。


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