愛の形
自分の幸せを選んだ。
誰のためでもなく、自分の幸せを選んだ。
たとえ途中で、恭介と愛し合ったとしても。
あれは、傷を舐めあっただけだ。
「瑞樹くん?」
訝しげにすみれが問う。
「俺は、秋一を待つよ」
すみれは驚いたように一回、瞬きをし、そして、哀しそうに笑った。
「瑞樹くん」
すみれはどこか吹っ切れたように瑞樹を呼ぶ。
「真司の話をして」
「緒方の」
「そう。私の知らない頃の話」
「……楽しい話じゃないよ」
「いいの。聞きたい」
瑞樹は、嘘を吐く方法を忘れてしまった。
*****
弟の息子と弟の幼馴染の娘が悪友と共に去った部屋で、緒方怜司は溜め息を吐いていた。
紅茶も、喉を通らない。
「俺はホモじゃない」
怜司の独り言に、肯定も否定もない。
「ホモじゃないけど」
それは、和輝を拒否する理由にはなりえない。
自分の幸せを優先するか。
愛する人の幸せを願って、身を引くか。
どちらの末路も知っている怜司は、珍しく計算尽くでない考えを持て余していた。
だって、だって。
あの、和輝が。
怜司以上に冷めた男が、あんなに情けない顔を見せた。
「俺の言うことなら、何でも聞くくせに」
嫌味を呟いたって、誰も、聞いてないのに。