愛の形
「いや、まだ……。というか、今日は茜と食べてってメールが」「恭ちゃんは?」「恭介?」
母の従兄の名を出され、薫は首を傾げる。
「恭介が……どうした?」
目を逸らし続けた不安が、ゆっくりと形をなしていくのを薫は感じ取った。
「なあ。恭介がどうした? 今度は何があった?」
矢継ぎ早な薫の質問に、姉は何も言わない。
薫の背筋に悪寒が走る。
「茜、黙ってないで答えろ。茜。黙ってちゃ俺もわからない。あかねッ」
姉は、首を横に振るだけだった。
「薫くんが無事なら、それでいい」
「なんだよ、それ」
薫は姉の言葉にひっかかりを覚える。――薫くん「が」?
「葵は? 無事って、どういうことなんだよ」
姉は無言で薫の脇を通り抜けた。
薫はまだ、護られるだけ、らしい。
*****
そう遠くないけど、一応の昔々、普通の少年が、普通の少年に恋をした。
幼さゆえに受け入れた代償は、我が子たちが贖うことも知らずに。
*****
どこにも存在するはずのない場所で、昼も夜もない世界で、緒方すみれは、従兄の幼馴染と睨みあっていた。
「信じなくていい」
――信じられるか。信じてたまるか。
緒方すみれは、心の中でそっと毒づく。
従兄の幼馴染は、どうでもよさそうに言葉を続ける。
義務だから、教えてやってるんだ。
そう言いたそうに。
面倒臭がっていることを、隠そうともせずに。
「恭介も緒方も、貴女に死んでほしかったわけじゃない」
――当たり前だ。……でも。どうすればよかった?