愛の形
ひとり自室に残った暁は、立っていられず、ずるずると床に崩れた。
脳裏に浮かぶのは、もう何年も会っていない姉。
両親のいない、そして弟のいない寂しさに耐えかねて、男を誑し込んだ姉。
その姉を、その娘を、そして暁を護ろうとして奔走してくれた幼馴染たち。
――『この子は、俺の子だ』
そう言い張ってくれた幼馴染の声が耳に蘇り、思わず息が詰まる。
目の奥が熱い。
「こんなところまで似なくていい……ッ!」
言葉と共に、意識がふっつりと、途切れた。
*****
緒方真司の親友、岸本秋一の恋人は岸本瑞樹である。
岸本瑞樹の幼馴染は樋山恭介であり、樋山恭介の妻は岸本瑞樹の妹である。
緒方真司の妻は緒方すみれであり、樋山恭介の従妹である。
樋山恭介は、緒方真司の元恋人である。
――ここまで脳内で整理した岸本秋一は、一瞬、自分が恋人を亡くしたばかりであるということを忘れた。
「あのな、緒方」
「わかってる、秋一」
「……」
「……今、する話じゃなかったな」
疲れたように溜め息を吐く真司に、秋一は何も言えなかった。
――瑞樹の死を瑞樹の家族へ知らせた秋一は、家族の到着後、瑞樹へ一切、近寄ることができなかった。
どこから聞きつけたのか、ふらりと秋一の下へ現れた親友は、秋一を葬儀場の庭へ連れ出し昔話を始めた。
ぽつり、ぽつりと。
約20年ぶりの再会。
お互い、積もる話があるとは思っていたが、いきなり聞かされるとは思っていなかった。
「秋一、お前、行くところあるか」
「……瑞樹と、住んでたところがある」
「今日、メシ食いにこないか」
真司の提案に、秋一は首を横に振る。