旅の終わり | ナノ

愛の形

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 その隣では弟を誑かした弟の幼馴染の娘が、頬に氷枕を当てたまま体を縮こまらせている。
 業を煮やした怜司は悪友、木瀬和輝を呼び出した。
「このふたりを匿え」
「それはいいけどね」
 理由も言わずに命令した怜司へあっさりと応じる和輝に、むしろ怜司のほうが拍子抜けしてしまった。
「まずは、少し寝かせてあげなよ。あるでしょ? 布団くらい」
「でも、父にばれたら」
 慌てる葵の頭を和輝は小突く。
「ばれちゃまずいことしたなら、尚更。大丈夫。真司にチクッたりしないよ。2時間後、出発ね。それまで寝てて」
「和輝」
「わかってるよ」
 布団を出すのを手伝え、と言外に命じる怜司へ肩を竦め、和輝は指示された通りに布団を取り出し、子どもたちのために敷いた。
 疲労が限界に達していたらしいふたりは、互いの手を握ったまま眠りに落ちた。
「甘いな、お前」
「責任、感じてるからね」
 ぼそりと、和輝を責めるような怜司の声に、和輝は真顔で応じる。
 ――恭介に捨てられた真司を心配するあまり、怜司のほうが参っていたあの頃。
 和輝にしてみれば、ほんのいたずら心だった。
 恭介にそっくりな、後輩の女性を真司にあてがった。
 まさか、恭介の従妹とは知らず。
 まさか、本当に結婚するなんて思わず。
 そして生まれた葵たちも、幼くして母と育ての親を失うことになる。
 しかし、この歳で独り身なのは、決して、贖罪ではない。
「結婚しないの?」
 和輝の軽口に、怜司が震えた。
「きみと?」
「そう、俺と」
 怜司はうっすらと微笑みを浮かべ、そして首を傾げた。

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