愛の形
「あのねえ、葵。朝陽の子の父親は、誰?」
「俺です」
「大人を甘く見るんじゃない。調べれば簡単に分かることなんだ」
葵は口を割らない。
静かに、葵は首を振り、「暁おじさま」と控えめに呼んだ。
「俺を殴らなかった。なんで?」
「その価値もないからだよ、クソガキ」
葵は困惑した表情で暁を見つめる。
暁は葵の腕を掴み、強引に追い出した。
*****
暁の家から数分もしない公園に、朝陽はいた。
汚らしいベンチで、膝を抱えていた。
「葵、ごめん」
「いいよ。行こう」
「わたし、戻るよ」
「……うちに、おいでよ。茜も喜ぶ」
朝陽は力なく首を横に振る。
「本当のこと、言うよ」
「朝陽」
「送ってくれる?」
葵は逡巡した。
頷き、朝陽の手を取る。
「俺の伯父貴の家に、行こう」
*****
緒方怜司は頭を抱えていた。
憔悴しきった弟の子どもと、弟の幼馴染の娘を部屋に迎え入れたはいいものの、ふたりとも頑として黙秘を貫いている。
「シンを呼べばいいのか?」
「呼ばないで」
元々気が短い怜司が弟の名を出すと、か細い声で、葵がぽつりと言葉を漏らした。