愛の形
「朝陽を俺にください」
「……なんで? きみ、高校生でしょう。卒業してすぐ、なんて、認めないよ?」
よくもまあ、冷静に言葉を出せたものだと、暁は自分を褒めたかった。
口の中が、からからに渇いていた。
答えが、わかりきっていた。
「朝陽のお腹の中に、俺の子がいます」
真司そっくりな顔で、いつか暁が聞いた台詞を吐く。
葵の背に庇われている朝陽は俯いたまま、暁を見ようとはしない。
「朝陽」
暁は愛娘に呼びかけた。
朝陽は、答えなかった。
暁の苛立ちが臨界点を超えた。
*****
音が出るほど暁に殴られた朝陽が、飛び出していく。
葵も後を追うと思ったが、残っていた。
「暁おじさま」
真っ直ぐに暁を射抜く視線を、暁は鼻で嗤った。
「出ていって。きみも」
「朝陽を俺にください」
「出ていって」
葵は動こうとしない。
かつての暁の足元にも及ばない、甘ったれた顔をした、幼馴染の子ども。
「葵」
名を呼ぶと、初めて葵が怯んだ。
「大切なものを秤にかけてごらん」
――葵、きみはまだ、
「茜と薫は? 緒方のもとに残していくつもりかい?」
――失わずに済む。
姉と弟の名を出されると、葵の表情が消えた。
「俺は、朝陽のことが」「そもそも緒方は知ってるの?」
ふいと横を向く、幼い子ども。
思わず、溜め息が出た。