愛の形
俺の愛する人の生きた証を、残してくれてありがとう。
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記憶を取り戻してから、恭介はそれを悟られないように気を配った。
幸い、記憶を失っている間の記憶もあり、困ることはなかった。
ただ。
時折、恭介を訪ねてくる真司が、気がかりだった。
愛おしそうに、切なそうに、恭介を包む眼差しを思い出し、泣きたくなった。
お互い、自由を手に入れたと思ったのに。
恭介が、真司とすみれの息子を庇って記憶を失ったことで、真司は恭介から逃れられない。
――昔のように愛されている、と自惚れることはできなかった。
すみれが大事だ。
真司が大事だ。
ふたりの子どもたちも、言いようがないほど、大切だ。
妻が大事だ。
息子が大事だ。
だからこそ。
ここで間違えることはできない。
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瑞樹と真司は中学のときのクラスメイトであった。
瑞樹の訃報に接したとき、恭介の記憶は失われたままであったが、恭介の妻であり瑞樹の妹である梓紗が真司に連絡を入れた。
記憶がないときの恭介は、余計なことだと舌打ちしたい気持ちだった。
しかし、記憶を取り戻したとき、悟った。
梓紗が真司を呼んだのは、瑞樹に別れを言わせるためではない。
瑞樹の恋人である秋一を支えてもらうためだ。
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真司が恭介に拒絶される前日。
真司の幼馴染、名賀暁は真司の息子、緒方葵と睨みあっていた。