愛の形
妙に寂しそうに響いた声は、和輝ではない誰かを憂えていた。
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緒方真司の兄、怜司が親友の和輝にプロポーズされた同時刻。
「こんなところまで似なくていい……ッ!」
緒方真司の幼馴染、名賀暁が自室でひとり、呻いていた。
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緒方真司が元恋人に拒絶される一週間前。
「なんでいつも僕を置いていく」
緒方真司の親友、岸本秋一は、恋人を亡くした。
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緒方真司が元恋人に拒絶される前日。
緒方真司の永遠の想い人は、永久に愛する者を決めた。
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信じられないほど、大馬鹿者。
――それが、記憶を取り戻した樋山恭介にとって、最初の感想である。
恭介の幼馴染であり、妻の長兄でもあった瑞樹の葬儀に参列したときには何も感じなかったというのに。
恭介を幼い頃にかわいがってくれた、妻の両親に罵られても、何も、感じなかったというのに。
瑞樹の恋人が、妻の両親に罵られているのを見ても、何も、何も、何も、感じなかった。
「本当に、覚えてないんだな」
瑞樹の恋人と二人きりで相対したとき、その瞬間は訪れた。
しゅういち、と呼びそうになる唇を、秋一にばれないように緩く噛んだ。
叫びだしそうだった。
最愛の従妹の死、従兄からの拒絶、実家との断絶、妻との駆け落ち。
――永久に愛する人の、嘆き。